「秋風」 ryonaz
その時、一迅の風が吹いた。
身を包む大気の涼やかさは、夏の終わりを否応なしに告げる。
夏の間、
夜半を過ぎ、吸い込む息は冷たくなっている。
しかし、俺の全身から滴る汗は、止むことがなかった。
俺は抵抗をやめた。
身体中が熱い。
スーツには、どす黒い液体が生々しく付着していた。
俺を見下ろす瞳は六つ。瞳の奥の妖しい光は、
彼女たち三人は、まだ十代だろうか。幼さの残る綺麗な顔を、
狙いは金だろう。財布だけは何としても守らなければならない。
三人のすらりとした脚が、高く振り上げられた。
陽を十分に浴びた褐色の美しい肌を惜し気もなく晒される。
一瞬のことだった。
命の危険すら感じる場面のはずなのに、
瞬く間に俺の視界が大きく反転した。
自分が地面に突っ伏したことを自覚した時には、既にこの身は、
叩き付けられる数々の雨に打たれ、
額から、鼻から、目尻から、口元から――
身体中の至る所から熱い液体が流れ落ちていくのを感じる。
意志に反して、この身体は右へ左へと突き動かされる。
財布を握っていた力が、どんどんと失われていく。
彼女たちの力と狂気に触れ、俺は自分の無力さを知った。
やがて嵐は止み、静寂が辺りを包み込んでいた。
一人はその肉感のある太腿で俺の首を絡め取り、
痛みと苦しみゆえに膨張し、膨張するがゆえに弄ばれ、
三人の声がその場一帯を覆っている。しかし俺の頭は、
やがて凄まじい快楽がこの身を高沸へと誘った。
敗北の香りは、ただただ甘かった。
俺の手から零れ落ちた財布を、彼女たちが見咎める。
いいさ。持って行けば。俺にはもうそれを守る力はないのだから。
しかし、彼女たちは財布を一瞥した後、
一番大人びた娘の手が、血で染まっている。
そうか……。彼女たちが欲していたのは――
長い前髪で片目を隠した娘が、ゆっくりと俺に近付いてくる。
血のにおいが鼻腔をつんざく。
俺は、鉄錆のにおいでどうにかしてしまったのだろうか。
その時俺は、確かに幸福を感じた。
END